多くの参列者が集まった安倍晋三元首相の国葬会場
=9月27日午後、東京都千代田区の日本武道館(代表撮影)
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安倍晋三元首相の国葬が執り行われた。日本の国として、功績のあった故人を、真心込めて送ることができて本当に良かった。
内外の約4200人が参列した。テレビやインターネットの中継で、多くの人々が見守った。
国葬の実施を判断し、葬儀委員長を務めた岸田文雄首相はじめ、準備や進行、警備、海外要人の接遇などに当たったすべての関係者の労苦に感謝したい。
岸田首相は弔辞で「歴史はその(在任の)長さよりも、達成した事績によってあなたを記憶する」と称(たた)え、安倍氏の業績を踏まえ国政を運営する思いを披露した。
感動を呼んだのは、安倍氏を長く支えた菅義偉前首相による友人代表の弔辞だった。
菅氏は、暗殺された伊藤博文を偲(しの)んだ山県有朋の歌を「私自身の思い」として、2度読み上げた。安倍氏の読みかけの本にペンで線を引いてあった歌だった。
「かたりあひて 尽(つく)しゝ人は 先立ちぬ 今より後の世をいかにせむ」
式場では、日本の葬儀としては異例の拍手がおこったが、中継をみていて共感した人は多かったのではないか。言葉の力が、故人を見事に送ったのである。
国葬は、式場の中だけで行われたわけではない。近くの九段坂公園はじめ、全国各地で一般向けの献花場が設けられ、多くの人々が足を運んだ。
九段坂公園で献花しようとする老若男女の列は4キロ超に及んだ。全国から集まった約2万6千人が献花したが、時間切れでかなわなかった人もいた。一般で募られた安倍氏へのデジタル献花は、50万人を突破した。
日本は国として、礼節を尊(たっと)んだといえるだろう。
ただし、国葬当日に、残念な振る舞いに及ぶ人々が少ないながら存在した。法的根拠がない、説明が不十分だ―などと反対を叫ぶ集会やデモである。高齢者の姿が目立ったが、式場近くで集団での抗議に及ぶ場面もあった。
心静かに故人を送るのが葬儀の日である。それが分からず、礼節に反して騒ぎ立てたのは情けない。国会が平成11年に、国葬の法的根拠である内閣府設置法を可決成立させたことを知らないのか。政府与党は堂々と国葬の正しさを説いてもらいたい。
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2022年9月30日付産経新聞【主張】を転載しています